第37回鳥人間コンテスト、お疲れ様でした。今回はTV番組に映らなかったチームの、ある重要な問題提起を取り上げたいと思います。今年の鳥コンへの参加を直前になって辞退された、東京大学F-tecさんの話題です。
今年の鳥コンを辞退したF-tec
TV放映では完全に「無かったこと扱い」にされていましたが、今年の鳥人間コンテスト・人力プロペラ機タイムトライアル部門にはF-tecさんもエントリーされていました。しかし大会直前になって出場辞退を決断。琵琶湖に機体を持ち込むこともしませんでした。そしてその理由は公にされてはいなかったのです。
今年のF-tecに関しては、機体にトラブルを抱え、調整が進んでいないという話は聞こえてきていました。今年は駆動系に大きな変化があったこと*1を始め、操舵系にもトラブルがあったことがテストフライトの報告からは読み取れます。
人力飛行機は繊細な乗り物です。重心やプロペラピッチ、主翼の迎え角等様々な調整箇所があり、全てを完璧にセッティングしないと安定したフライトが出来ないどころか、操縦不能の状態に陥ってしまうこともあります。その為、鳥コンを目指すチームは本番まで何度もテストフライトを重ね、ベストのセッティングを探っています。残念ながら今年のF-tecは、本番1ヶ月前に至ってもその調整以前の問題に苦しんでいるという状況でした。
そして大会直前での辞退へと至ったわけですが、その判断に至るまでの経緯は鳥コン終了後、今になるまで明かされることは無かったのです。そもそもF-tecは鳥コン出場19回を数える強豪ですし、あのまま終わるとは思えない、あまりに唐突な棄権であったと、私自身の感想としてそういう割り切れなさが残っていました。
出場辞退への流れと問題提起
そして今日、学生交流会*2の資料として棄権へ至る経緯が明かされました。ここでは、その資料の中から今回話題にする部分のみを抜粋したpdfを、執筆されたF-tec代表の許可を得て公開します。抜粋した部分以外の資料については、検索すれば公開されているページが出てくると思いますのでそちらをどうぞ。
資料の要旨に関しては以下のとおりです。なお太字はこちらによるもの。
- 「現在F-tecは顧問不在の実質活動停止状態」にある
- 6月までのテストフライト(TF)の状況から「顧問の先生が「そもそも安全管理意識、航空工学やその他工学に関する知識が足りていない」と判断し、TFの続行を禁止」され、TFの続行が不可能となった。TFが行えない以上本番でも安全を確保出来ないため、出場辞退に至った。
- 鳥コン終了後の代替わり*3後、「「学生による人力飛行機製作は一人の教員が責任を負いきれる活動ではないため、来年度以降顧問を引き受けることはできない」と」顧問より通達があった。顧問が不在となるため、このままではサークルとしての活動ができなくなる。
- 「私たちが直面している問題は、いずれどのチームも直面する問題」である。
この後、鳥人間業界への問題提起が続きます。以下、段落タイトルのみ抜粋。
F-tecがここまでの事態に至った背景として、昨年提訴された九州工業大学KITCUTSに対する民事訴訟の影響が考えられます。
この件に関しては、被告に顧問である大学教授の名前もあり、活動に関与しないと言われる大学サークルの顧問についても責任は逃れ得ないのではないか、という見方があります。この裁判については、顧問のサークルへの関与についても争点として争われていることに注意が必要ではあります。これまで曖昧にされていたものづくり系サークルでの責任問題について、本格的に考えられるべき時代になってきたということです。
また、ここ数年タイムトライアル部門出場機には設計機速の上昇傾向があるという点も見逃せないでしょう。言うまでもないことですが、機体の飛行速度が上がればテストフライトのリスクは上がります。離陸までの滑走距離が伸びることや、グラウンドクルー*4が機体に追いつけなくなるリスクが増すことがその理由です。
私自身としては、「テレビ番組制作という目的を持っている以上、各チームの安全に関しては運営側が責任を持つべき」とは考えているのですが、では大会以前のテストフライトに関しては誰が責任を持つべきなのか?という問題は残ります。テストフライトであっても人が乗り込んだ飛行機が飛ぶわけで、そこでの事故というものも残念ながら毎年のように起こっています。*5そこで起こした事故について、鳥コン運営側に責任を被せるのは難しいでしょう。
どこまで自分の作ったものに責任を持てるのか?
自分が作ったものに人を乗せる覚悟があるか?
今まで曖昧だったこの問題に、鳥人間全体全員で向きあう必要があるのではないでしょうか。